Christmas Day (1)
クリスマスは恋人と、なんて、誰が決めたことだろう。
「うん、五限終わってからだと間に合わないから。代わりに――うん、うん。コルクボードに貼ってあるやつ。……それはクリーニングの引換証じゃ――そう、その薄緑っぽいヤツ。頼みます」
おっけー、という脳天気な返事を受話口の向こうに聞いて、静かに電源ボタンを押す。ぷつり、と切れた電話の先で、あの人はきっと、先日新調したばかりのコートに袖を通し、いそいそと出かける準備をしていることだろう。
「よっ、恵。今日は最後まで出てくのか?」
「出ないと単位くれないっていうんだから、出ないわけにもいかんでしょ」
「あんなの脅しだろー。俺はさっさと抜けて、お台場へレッツゴーだぜ!」
何故にお台場。そう問いかけて、ふと思い出す。この底抜けに明るい友人は、つい一月ほど前に半年越しの恋を実らせたばかりだ。そりゃあ、嫌がらせのような授業をすっぽかしてでも、お台場に駆けつけたくもなるか。
「……しかし。何故にお台場……。もっと近場で済ませりゃいいものを」
「いやー、あけみちゃんがさー、お台場の観覧車に乗ってみたいっていうからさ〜。あそこ、何個か全面透明なやつがあるの知ってるか?」
知らん、ときっぱり言いそうになったが、そういえばこないだ聞いたような気がする。「シースルーゴンドラはム○カ気分」とかなんとか……。
「あれ、高所恐怖症の人間には地獄らしいよ。大丈夫なのか、お前のあけみちゃんとやらは」
「いや、むしろ俺が駄目だが、でも大丈夫、あけみちゃんだけ見ていれば怖くないさっ!」
「好きなだけ見てろ。そして周囲の視線も気にせずに、思う存分ラブラブしてろ」
浮かれ飛んでいるヤツの耳にも、呆れ返った声はちゃんと届いたらしい。少しだけむっとして、そしてふふんと鼻を鳴らされた。
「やっかむなよ、あとで写メってやるから」
いらんわ。
「なーに言ってんの、めぐみクンには立派な彼女がいるんじゃなーい。今夜は自宅でしっぽりクリスマスでしょー? ううん、羨ましいっ」
声と共に背後から襲い掛かってきた衝撃に、どうにか耐え忍んで声の主を窺えば、確か昨日で今年中の講義を終えて一足早い冬休みに入っていたはずの学生会々長が、にやにやと書いてあるような顔で脇腹をぐりぐり抉ろうとしている。
「ちょっ、痛いですって……。って会長さん、今日は授業ないんじゃ」
「いやー、学生課に呼び出し食らっちゃってさー。年内に出さなきゃいけない書類があったんだって」
「家近いと大変っすね……」
「まー、どーせ今日もバイトしか予定ないし? いーんだけど。だからめぐみクン、彼女と二人で食いに来て。12月限定のクリスマスプレート、結構うまいよ?」
ファミレスでクリスマス。確かに大学生の懐事情を考えると、それが実に妥当ともいえる。しかしだ。
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